Fate/Zero 第十六話「栄誉の果て」 感想!
戦闘に感情を持ち込むべきではない。だが。
衛宮切嗣
衛宮切嗣の考えは、いかにも立派だ。
そうだ、我々日本人は、誰よりも戦争を憎む民族ではなかったか。終結からやがて70年が経とうとしている太平洋戦争、その時の最大の犠牲者ではなかったか。
空襲で首都を焼け野原にされた。広島と長崎に原爆を落とされた。沖縄の上陸戦では、実に人口の五分の一以上が殺された。
そう、戦争――ここでは戦闘と包括しよう――は、常に犠牲者を伴う。死とは疑うべくもない損失だ。その死が伴う戦闘を、やれ誉れだ、やれ誇りだという綺麗な言葉で飾り立てるのは、確かに愚行だ。
軍属であれば死もやむなし? 馬鹿を言ってはいけない。生死をかけて戦うこと自体が、周りにいらぬ悲しみをまき散らすというのに。
ああ、切嗣の事を極悪非道だと誹るのは簡単だ。しかし、我々がどうして彼を責めよう?
そこに戦士としての誇りがあれば、誰が死んでもそれは美しいと?
そんな馬鹿なことがあってたまるか。美しい死なんてあり得ない。英雄の活躍がかっこいいなどと、口にするのも憚られる。
誰もが、9.11を覚えているだろう。旅客機が世界貿易センタービルに突撃するさまを見て、驚愕に震えたはずだ。あまりの凄惨さに、言葉を失くしたはずだ。
しかし、実行犯のアルカイダは、あれこそが正しい行いだと思っている。見る位置を変えれば、あれも英雄の行いなのだ。
ここで、切嗣の考えを仮定レベルで否定しよう。
さてこの聖杯戦争。聖杯戦争を一言で定義するならば、この場合は「一組が勝つまで終わらない戦争」と言えよう。
そう、終わらないのだ、この戦争は。ならば相手を殺して、勝つしかない。事実、切嗣だってそうしている。
しかしならば。この戦争の状況においては、セイバーやランサーなどのサーヴァント、ひいてはマスターたちの命は、「消えてもいい命」とはならないか?
消えてもいいのなら、消し方くらいは自分たちで決めたいもの。そこに栄誉だの誇りだのを持ってきたところで、切嗣にとやかく言われる筋合いなど、断じてない。
しかしここでも、切嗣の行為がこの反論を封じ込める。
勝たねばならないのなら、勝つように努力するしかない。
切嗣のやり方は、実に理にかなっている。ああするのが一番、勝利に近いのだ。
敵を殲滅し、己の陣営は一人も欠かさず生き残る。最高の結果だ。戦闘を不可避とするなら、これ以上の成果はない。
そうなると、勝てるかどうかも微妙なセイバーの斬り合いは、確かに愚者の行いだ。「確かな勝算がないなら主を連れて逃げるべきではないか」というケイネスの言い分の方が、遥かに正しい。
そう。我々は、切嗣の考え、そして行動を否定することができない。
彼は正しい。正しすぎる。
血を流すことを非としながらも彼自身が血を流す矛盾も、聖杯戦争のシステムが正当化してくれる。寸分の隙もない。
英霊・ディルムッドの最期
しかし。しかしだ!
理屈では測れないものなんて、世の中にはいくつもある。生物がその種を存続するために必要な感情「愛」すら、理屈で説明することはできない。
切嗣は正しい。ああ、それは正しいとも。
しかしそうだとして、セイバーやランサーが間違っているとなると、これを首肯するわけにはいかない。
これは単純な正否の問題ではない。そう、取るに足らないただの感情論だ。
戦闘に感情を持ち込むべきではない。だが。
ディルムッドが主から受けた誹りは、戦闘の結果など関係のないところからだった。
ソラウを止めきれなかった、そして守り切れなかったことを延々と罵られ。謂れのない罵倒を浴びせられ。
それでも今度こそ忠誠に生きると誓った彼は、主の言葉を甘んじて受け入れるしかない。
確かに彼にも、落ち度はあろう。気配を感じ取れないならより一層注意するべきというケイネスの言い分はいちいちもっともだ。
だが、誇りを汚された心の痛みは如何ともしがたい。その怒りはどこへ向ければいい?
そんな中で、セイバーの登場は彼にとってどれだけの救いだったか。
「セイバーよ。この胸の内に涼風を呼び込んでくれるのは、今はもう、お前の曇りなき闘志のみだ」というセリフが、僕は大好きだ。
しかし、そんな彼の唯一の心の泉たる打ち合いにも、切嗣めは水を差してくれた!
いや、繰り返しになるが、切嗣は何も悪くないのだ。ランサーとて、打ち合った先には勝利を求めたはずだ。切嗣も同じく、勝利を欲したまで。
だが、ことは理屈では最早語れない。
ここからは感情論の世界だ。
ランサーの、誇り高きディルムッドの無念を見て、我々は感じざるを得ない。何故ここまでする必要があるのかと!
始末に負えないのはその最期。自らの胸に突き立つ槍を見て、ディルムッドは状況を理解しただろう。しかし、一つだけ誤解をしてしまった。
誤解もむべからぬところだ。ディルムッドの視点から見れば、誰が見たってセイバーすらグルだ。
たった一つ、信じた涼風。それすらディルムッドからは奪われてしまった。
怨嗟の声を上げるディルムッドが痛ましい。彼の怒りは、我々の心をいみじくも穿つ。
セイバーは、弁明したかっただろう。私にも想定外の事態だと。
私は確かにあなたと打ち合い、真の決着をつけたかったと。
しかし言葉はあまりにも弱い。ああなった以上、最早ディルムッドの最期を黙って看取る以外に術はなかった。
誇り高きディルムッドは、誇りをいちじるしく汚されたまま、死んでいった。
何一つ、得るものなどなく。
これが栄誉の果てだと言うのか。こんなものが、聖杯戦争の結末だとでも言うのか。
何度でも言おう、切嗣は正しい。
しかし! 彼に対しふつふつとわき上がるこの怒りは、抑えることなど叶わない!
どうして騎士の誇りを汚せよう? どうしてそうまでして勝利にこだわろう?
理屈ではない、感情がそう訴える。
さらに許せないのは、その後の所業。
彼はランサーだけでは飽き足らず、ケイネスすら心身ともに打ち砕いてみせたのだ。
婚約者ソラウを、確かに愛していたケイネス。その愛は本物だったろう。たとえソラウの方が、ディルムッドに現を抜かしていたとしても。
彼はソラウとランサーを天秤にかけられ、ソラウを選んだ。その選択を、僕は敬意を以て評したい。
もうこうなると勝ち目なんてない以上、彼には自分に守れるだけのものを守るしか手はなかった。愛したソラウを、妻となる女を、守るしかなかった。
彼から戦意は完全に失われた。彼はこれから、妻ソラウと慎み深く生活していったことだろう。余生を妻のために尽くし、戦闘とは無縁な、しかしちっぽけな幸せを手に入れたことだろう。
だが!
しかし!
それすらも切嗣は奪い去った。すでに戦う意思のない戦士崩れの命すら、彼は無情にも葬り去った!
戦闘に感情を持ち込むべきではない。そうすると、ケイネスがまたぞろサーヴァントと契約して牙をむいてくるか、分かったものではない。
しかしそんなことはどうでもいい。どうでもいいと思えるほどに、この感情が訴える。
そこまでする必要はなかったと。それはセイバーの言う通り、外道の行いだと。
「殺してくれ」と絶望に打ち震えるケイネスに、すぐさま介錯の刃を振り下ろしたセイバーは確かに騎士だった。実にかっこいい。
しかしそうなると、何故即死させなかった、という疑問がわいてくる。殺すなら、それはそれは正しい切嗣の方法を是とするなら、せめて一撃のもとに沈めるべきだった。
ならば一番悪いのは舞弥か。この下手くそめが、まさか外す距離から狙っていたわけでもなかろうに。
この状況を見て眉をひそめる者があるとすれば、ライダー陣営か。
僕には切嗣への悪態を、感情論からでしかつくことができない。ライダーなら、理路整然とした文句で切嗣を攻撃できるだろうか。
まぁ、できるにしろできないにしろ、そのシーンを見ることは叶わなさそうだ。
せめて、冥福を祈ろう。
無念のままに散っていった二人の男に。そして、巻き込まれたソラウに。
ランサー陣営に安らかな眠りあれ。
つぶやき
ボーリングのボールには穴が3つ空いているけど、僕は3つともに指を入れると親指の爪が圧迫されて大変なことになるんだ。
だから上2つにしか指を入れないのだけど、そうなるとストレートが投げられない。
周りは「カーブ上手だね」と言うけど、僕はむしろストレートを投げられる周りが羨ましいよ。カーブができるとは言え右投げの左カーブしか投げられないから、右の方にピンが余った時の絶望は計り知れないんだぜ。


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